コラム

運動による予防・改善効果~ストレス

2019年6月19日
提供元:
NPO法人エビデンスベーストヘルスケア協議会 株式会社ライフケアパートナーズ
物事は、考え方によって逆説的な意見も多いものです。
ストレス過剰は命取りとなる要素が多いですが、平穏無事だけが長生きの足しになるかといえば、そうでもありません。
ある程度の不安、緊張、不満、野心などのストレスと、それを一時解放するスポーツ、セックス、スクリーン(テレビ、音楽、ダンス鑑賞などを含む)、それに良質な睡眠などが混在して、人間の生活リズムをつくっています。しかし現実はそう甘くはなく、いろいろなストレスから完全に逃れられる人はいません。
ストレスの多い職場では、神経症や心身症だけでなく、精神疾患の発病率も高くなるということです。
事実、厳格で小言ばかり言う上司の下では、心の病気になる部下が多く、単身赴任、転勤、三交代制などを頻繁に行っている職場では、心の病気を発病する人が多いと言われています。興味深いことに、体育科学センターが行ってきた調査では、運動・スポーツに期待するものの中で、「ストレスの解消」が圧倒的に多く、「病気の予防」や「体力の増強」を越えています。
体力に合わせて無理なく運動すれば、誰でも精神面への効果を実感できるはずです。
運動・スポーツのストレス解消作用には、運動・スポーツの持つ娯楽性、気晴らし機能、孤独感の解消、達成感などの心理・社会的な側面や、脳内麻薬様物質の分泌や脳神経・筋肉のリラクゼーション効果などの生理学的な側面もあります。

脳の神経が他の神経細胞に情報を伝えるときには、神経伝達物質と呼ばれる化学物質が必要です。
この神経伝達物質には多くの種類がありますが、ドーパミンが殊に有名です。
ドーパミンは人間の脳内で、他の動物よりも特別に多量に分泌され、脳を覚醒させ、快感を与え、創造性を発揮させる最も重要な神経伝達物質です。
ですから、ドーパミンは人間が自らの脳内で自製する「快感をよぶ覚醒剤」と称されます。
実際、覚醒剤の化学式は、ドーパミンとそっくりです。

脳内には他にも、鎮痛作用がモルヒネの実に約6.5倍ある精神的ストレスの解消役を務める脳内麻薬様物質(βエンドルフィン)や、身体ストレスの解消役を務める副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)などがあります。
運動中(特に有酸素運動)には、βエンドルフィンが安静時の3~5倍も分泌されるので、運動後の爽快感や精神的ストレスの解消に大きく貢献することが報告されています。

不安神経症にも有酸素運動が有効です。
不安の軽減はリラックスすることでもたらされるので、有酸素運動には有効な抗不安作用があることになります。
運動の抗不安作用は、多くの臨床研究で支持されています。
事実、京都大学の当研究室の実験でも、有酸素運動には、筋肉や脊髄にある運動神経が弛緩し、心身がリラックスしたときに出る脳波(α波)の増加が認められています。
また、うつ病の治療にも、歩行運動やジョギングが効果的であることが一部の臨床医の間で言われています。
ドーパミン関連分子の分泌促進、βエンドルフィンによる鎮静効果や多幸感とあいまって、抗うつ作用を発揮する可能性が十分考えられます。

精神的疲労やストレスの解消には、ごろ寝に象徴される静的かつ消極的手段よりも、動的かつ積極的手段である運動をして、ドーパミンやβエンドルフィンを放出し、脳を覚醒させ、快感を得て、意欲や創造性を高めるほうが、いかに心理的、脳生理学的に有効であるか理解していただけたらと思います。